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東京地方裁判所 平成5年(ワ)7465号 判決 1996年3月01日

原告

水田清三

水田東子

右両名訴訟代理人弁護士

弓仲忠昭

元倉美智子

被告

株式会社三菱銀行

右代表者代表取締役

若井恒雄

被告

ダイヤモンド信用保証株式会社

右代表者代表取締役

堀切英武

右被告両名訴訟代理人弁護士

小野孝男

庄司克也

近藤基

芳村則起

右訴訟復代理人弁護士

五十畑昭彦

被告

明治生命保険相互会社

右代表者代表取締役

土田晃透

右訴訟代理人弁護士

上山一知

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  1、2を選択的に求める。

1  被告らは原告水田清三に対し、各自金二億三六四九万六二〇八円及び内金一億九八九七万五三〇〇円に対する平成五年四月二六日から、内金二二一二万九〇八円に対する平成七年七月五日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2(一)  被告株式会社三菱銀行は原告水田清三に対し、原告水田清三の被告株式会社三菱銀行に対する平成二年一月六日付金銭消費貸借契約に基づく金一億七〇〇〇万円の債務及び同日付当座貸越契約に基づく平成三年二月二二日から平成七年六月二八日までの間に各借り受けた合計金五一〇一万円の債務がそれぞれ存在しないことを確認する。

(二)  被告明治生命保険相互会社は原告水田清三に対し、金一億五三三四万八五〇〇円及びこれに対する平成五年五月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(三)  被告ダイヤモンド信用保証株式会社は原告水田清三に対し、金三三七万五五一八円及びこれに対する平成五年五月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告ダイヤモンド信用保証株式会社は原告らに対し、別紙物件目録記載の土地・建物について、東京法務局目黒出張所平成二年一月三〇日受付第一八四二号の各根抵当権設定登記の各抹消登記手続をせよ。

第二  事案の概要

一1  本件は、原告水田清三(以下「原告清三」という。)及び原告水田東子(以下「原告東子」という。)が、被告らの、高額の金銭消費貸借契約及び変額保険契約を締結し、同貸金契約に基づいて高額の債務を負担するとともに、右の高額の借入金により右変額保険契約に基づく保険料を一時払することが相続税節税対策として抜群の効果があり、右変額保険の運用が確定的であるため、右相続税節税対策にはリスクが存在しないとの内容虚偽の説明を受けたことにより、右説明を真実と信じ、右リスクの存在について知らないまま、右各契約を締結することにより、原告清三らに相続が発生した場合の相続税を確実に減額させて原告ら所有の不動産を売却することなく右貸金債務を返済しうると信じて、被告株式会社三菱銀行(以下「被告銀行」という。)から金一億七〇〇〇万円を借り入れ、借入金の利息も借り受けるとともに、被告ダイヤモンド信用保証株式会社(以下「被告保証会社」という。)との間に原告ら所有の別紙物件目録記載の土地・建物(以下「本件土地・建物」という。)に右借入金を被担保債務とする根抵当権設定契約及び保証委託契約を、被告明治生命保険相互会社(以下「被告保険会社」という。)との間に複数の変額保険契約を各締結して、右借入金により右各変額保険契約に基づく保険料を支払ったところ、被告らの説明に反して、変額保険の運用が確定的なものでなかったうえ、実際の右運用が不調となったため、右各貸金契約に基づく債務元利金合計金額が右各変額保険契約に基づく解約返戻金の金額を上回る等の損害が原告らに生じたので、原告らの右損害は被告らが前記の内容虚偽かつ不十分な説明を行った等の不法行為をなしたことにより原告らが本件各契約の内容を誤信したことによって発生したとして、被告らの右不法行為に基づく右損害の賠償、若しくは原告の被告銀行に対する右各貸金契約に基づく貸金債務の不存在の確認及び右貸金債務を被担保債務とする右根抵当権設定契約が無効であるとして、右根抵当権設定登記の抹消登記請求並びに右各変額保険契約及び右保証委託契約が無効であるので、保険料、保証料の支払が不当利得であるとしてその返還を求めた事案である。

2  争いのない事実

(一) (当事者)

原告清三と原告東子は夫婦であり、水田靖子(以下「靖子」という。)は、原告らの長女である。

株式会社明治生命保険代理社(以下「明治生命保険代理社」)は被告保険会社と親子会社の関係にある会社である。

(二) (本件各変額保険契約)

(1) 原告清三と被告保険会社とは、平成二年一月二九日、左の内容の変額保険契約(以下「本件変額保険契約一」という。)を締結した。

① 被保険者   原告清三

② 保険金受取人 原告東子

③ 死亡保険金額 基本保険金二億円及び変動保険金の合計金額(ただし、基本保険金額は最低保証)

④ 保険料    金一億一五三七万四〇〇〇円

⑤ 保険の名称  ダイナミック保険ナイスONE

⑥ 契約解約の際には、被告保険会社が保険料等の運用の実績に応じて変動する解約返戻金を支払う。

(2) 原告清三と被告保険会社とは、右同日、左の内容の変額保険契約(以下「本件変額保険契約二」という。)を締結した。

① 被保険者   原告東子

② 保険金受取人 原告清三

③ 死亡保険金額 基本保険金五〇〇〇万円及び変動保険金の合計金額(ただし、基本保険金額は最低保証)

④ 保険料    金二一九五万五〇〇円

⑤ 保険名称  ダイナミック保険ナイスONE

⑥ 契約解約の際には、被告保険会社が保険料等の運用の実績に応じて変動する解約返戻金を支払う。

(3) 原告清三と被告保険会社とは、右同日、左の内容の変額保険契約(以下「本件変額保険契約三」という。)を締結した。

① 被保険者   靖子

② 保険金受取人 原告清三

③ 死亡保険金額 基本保険金五〇〇〇万円及び変動保険金の合計金額(ただし、基本保険金額は最低保証)

④ 保険料    金八〇一万二〇〇〇円

⑤ 保険名称  ダイナミック保険ナイスONE

⑥ 契約解約の際には、被告保険会社が保険料等の運用の実績に応じて変動する解約返戻金を支払う。

(4) 原告清三と被告保険会社とは、左の内容の変額保険契約(以下「本件変額保険契約四」という。)を締結した。

① 被保険者   靖子

② 保険金受取人 原告清三

③ 死亡保険金額 基本保険金五〇〇〇万円及び変動保険金の合計金額(ただし、基本保険額は最低保証)

④ 保険料    八〇一万二〇〇〇円

⑤ 保険の名称  ダイナミック保険ナイスONE

⑥ 契約解約の際には、被告保険会社が保険料等の運用の実績に応じて変動する解約返戻金を支払う。

(以下、右各変額保険契約を一括して「本件各変額保険契約」という。)

(5) 原告清三は被告保険会社に対して、本件各変額保険契約に基づき、右同日、右各保険料合計金一億五三三四万八五〇〇円を支払った。

(三) (本件各貸金契約)

(1) 被告銀行は原告清三に対し、平成二年一月二六日、利息、当初年6.5パーセント、契約締結後は長期貸出最優遇金利を基準として決定する、遅延損害金一四パーセント、弁済期を元本につき平成二二年一月二六日、利息につき平成二年二月から右元本返済日まで毎月二六日限り支払うとする約定の下に、金一億七〇〇〇万円を貸し付けた(以下「本件貸金契約一」という。)。

(2) 被告銀行は原告清三に対し、右同日、借入極度額を金一億三八〇〇万円、利率を変動方式(当初利率は年6.5パーセント)、弁済期、元金据置、利息毎月五日支払の約定の下に、当座貸越契約である「三菱マイカード<ビッグ>」契約を締結し、同契約に基づき、平成三年二月二二日から平成七年六月二八日までの間に、合計金五一〇一万円を貸し付けた(以下「本件貸金契約二」といい、以下、右の各貸金契約を一括して、「本件各貸金契約」という。)。

(四) (本件保証委託契約及び保証契約)

(1) 原告清三は、平成二年一月二六日、被告保証会社との間において、本件貸金契約一に基づく貸金債務につき、金三億三五〇〇万円を限度として保証し、原告清三が被告保証会杜に対し保証料名下に金三三六万五〇一二円を支払うことを内容とする保証委託契約を締結した。

(2) 原告清三は、平成二年一月二六日、被告保証会社との間において、本件貸金契約二に基づく貸金債務につき、金一億三八〇〇円を限度として保証し、原告清三が被告保証会社に対し、保証料名下に金一万五〇六円を支払うことを内容とする保証委託契約を締結した。

(以下右の各保証委託契約を一括して「本件各保証委託契約」という。)

(3) 原告清三は被告保証会社に対し、右同日、本件各保証委託契約に基づく保証料として合計金三三七万五五一八円を支払った。

(4) 被告保証会社は被告銀行との間において、右同日、本件各保証委託契約に基づき、原告清三が被告銀行に対して、本件各貸金契約に基づき負担する貸金債務を連帯して保証する旨の契約を締結した。

(五) (本件根抵当権設定契約)

(1) 原告清三は、平成二年一月二六日、被告保証会社との間において、原告清三が被告保証会社に対して、被担保債務の範囲を保証委託取引、金銭消費貸借取引、極度額を金三億三八八〇万円とする約定の下に、原告ら所有の本件土地・建物につき根抵当権を設定する旨の契約(以下「本件根抵当権設定契約」という。)を締結した。

(2) 原告清三は被告保証会社に対し、本件根抵当権設定契約に基づき、本件土地・建物に対し、東京法務局目黒出張所平成二年一月三〇日受付第一八四二号の、極度額を金三億三八八〇万円、債権の範囲を保証委託取引、金銭消費貸借取引とし、債務者を原告清三、根抵当権者を被告保証会社とする各根抵当権設定登記を経由した。

(3) 本件土地・建物には東京法務局目黒出張所平成二年一月三〇日受付第一八四二号の右の各根抵当権設定登記が存在する。

(以下、本件各変額保険契約、本件各貸金契約、本件各保証委託契約、本件根抵当権設定契約を一括して「本件各契約」という。)

(六)(1) 原告清三は、本件各契約締結に伴う諸費用として、合計金一億五八三〇万六〇〇円を支払った。

(2) 原告清三は、本件貸金契約一に基づく利息金として、平成二年二月二六日から平成七年六月二六日までの間に、合計金五五九五万八三一六円、本件貸金契約二に基づく利息金として、平成三年三月五日から平成七年七月五日までの間に、合計金六八三万七二九二円、総合計金六二七九万五六〇八円を支払った。

3  原告らの主張

(一) (請求の趣旨第一項1―不法行為)

(1) (説明義務)

① 金融機関が一般消費者に対して金融商品の勧誘を行う際の説明義務の内容及び右説明義務を尽くしたかどうかは、金融機関が勧誘する金融商品自体の特殊性、専門性、当該商品自体の危険性の有無及びその危険性の程度、当該商品の周知性及びその危険性の周知性、当該金融機関に法が要求する販売姿勢の内実、当該商品自体の発売等についての行政当局の許容性並びに指導監督等特別な行政当局の指導等の有無及びその内容、当該商品が予定する取引相手の知識・経験のレベル、これに対する当該金融機関の当該商品についての専門性を総合考慮して、信義則に照らして判断されるべきものである。

② 本件各契約は、本件各変額保険契約と本件各貸金契約とを結合させることにより、相続税の節税等を目的としたいわゆる相続税対策(以下「本件相続税対策」という。)であり、変額保険とは、変額保険に基づく保険料を他の資産と区別して特別勘定によって株式、公社債等の有価証券に投資して運用し、その運用実績により保険金額及び解約返戻金を変動させる仕組の保険であり、したがって解約返戻金及び変動保険金には最低保証はなく、ただ死亡保険金のみ給付額が保証されているという内容の保険である。

③ 日本において、変額保険の発売が開始されたのは、昭和六一年一〇月であるが、それ以前に日本において普及・定着していた生命保険は定額保険であって、定額保険は、変額保険とは異なり、一定額の給付を保証するために、資産運用に際して利息、配当金収入を中心とした安全性が重視され、運用実績が予定利率を下回った場合でも定額の保険金等の給付金額が保証されている、運用リスクを保険会社が負担する安全性を重視した性質の保険である。

④ 他方、変額保険は、株価、為替等の変動が直接保険金等の金額に反映する性質の保険で、保険会社の運用如何によって、又加入時期によって、保険金等の金額に大きな格差が生じるために運用のリスクは保険契約者が負担するもので極めて投機的な性格を有している。その複雑な仕組は一般市民には理解することに相当な困難を伴うものである上、一般市民の従来の保険に対するイメージと性質を全く異にする。ところが、一般市民には新聞等からの変額保険に関する情報取得も困難な情勢であった。以上のことから、原告清三の本件各変額保険契約締結当時、変額保険はその存在自体一般には認識されておらず、まして変額保険のリスク等到底周知されていなかった。

⑤ 更に、本件各変額保険契約は終身の生命保険契約であり、したがってその運用に関する長期的な見通し若しくは展望が必要であった。しかし、かかる長期的な運用の見通しは通常の一般市民にはほとんど困難であり、それゆえ、被告銀行若しくは被告保険会社の従業員が提供する株価予測、運用見通しに依存する状況であった。

⑥ しかも、本件相続税対策は、本件各変額保険契約に本件各貸金契約を組み合せて、本件各貸金契約による高額の借入元利合計金と一括支払済保険料によって評価される変額保険の財産価値に対する評価との対比で相続財産の減額評価を導いて相続税負担額を軽減するとともに、右借入金によって支払った右保険料等の特別勘定の運用実績が一定の利回りで期待できることから、この運用実績を反映すると定められている変動保険金若しくは解約返戻金が本件各貸金契約に基づく元利金を上回ることが期待できるので、本件各変額保険契約に基づく変動保険金若しくは解約返戻金により本件各貸金契約に基づく元利金を支払った上、相続税納税資金をも得られるとの見通しに立脚していた。したがって、本件相続税対策が原告の期待通りの成果を収めるためには、変額保険の運用実績の利回りが本件各貸金契約に基づく利率を上回ることが必要であり、しかも、本件各貸金契約に基づく貸金元本が変額保険の運用元本を運用当初から上回っている関係にあるところから、貸金元利金が変動保険金若しくは解約返戻金の金額を上回るためには、変額保険の運用実績の利回りが本件貸金契約に基づく利率を一定割合以上で上回ることが必要であった。しかしながら、変額保険の保険料による特別勘定の運用実績は株価等に左右されるために一定の利回りを確保することは困難である上、貸金利息がマイナスになることはありえないのに、変額保険の運用利回りはマイナスに転じる場合もありうる。しかも、保険事故の発生時期を予測することは困難であり、場合によっては、変額保険契約から保険事故発生までに一〇数年から二〇年余を要することもあるところ、右のような事情から、保険事故発生時に本件相続税対策が右の目的を達成するためには、一〇数年から二〇年間の運用実績の利回りがトータルで、貸付金利を一定割合以上、上回ることが必要である。したがって、本件相続税対策は、本件各変額保険契約の運用利回りがそれ自体として変動するものであるところから、その予測が外れる可能性があることに加えて、更に本件各変額保険契約の運用利回りと本件各貸金契約に基づく金利との関係に関する予測が外れる可能性があるという二つの点でリスクを含んだものである。

⑦ 大蔵省は昭和六一年一〇月の変額保険販売開始に先立って、保険会社各社に対して、「変額保険の募集に当たっては、個々の契約者の正確な理解を得ることがきわめて重要である。死亡保険金に最低保証額が設けられるにしても、保険金が資産運用の成果によって増減するという仕組みは、従来の定額保険に慣れている顧客にとって非常に目新しいものである。もし、正確な理解がないままに顧客に変額保険を売り込むようなことになると、その後において、思わぬトラブルが発生し、変額保険のイメージ、ひいては生命保険そのものの信頼に影響を及ぼすおそれすらあろう。顧客用の分りやすい説明資料を用意したり、変額保険を取り扱う外務員に特別な試験を実施する等種々の配慮がなされるべきことである。」「変額保険を発売する各社は、その普及に最善の努力を払うことになろうが、その商品の特殊性に鑑み、顧客の十分な理解を求めつつ、ある程度の時間をかけながら、変額保険の定着を図ることが最も重要である。」と指導していた。

⑧ また、生命保険協会は、昭和六一年五月一六日、変額保険の募集に従事する生命保険外務員につき、変額保険の商品特性に鑑みて、一定水準以上の専門知識、技能を修得させることが必要との基本的認識に立脚して、特別の販売資格制度(変額保険販売資格試験規則)を設けた。これは、保険審議会の昭和六〇年五月の、「変額保険の募集に当たっては、顧客に対し変額保険の仕組を契約者が資産運用のリスクを負担し、保険金額が減少する可能性があることを含め、十分説明する必要がある。これまでの定額保険の募集に必要とされていた知識に加えて、変額保険を正しく販売するための特別の資格認定制度及び変額保険の募集知識や募集方法についての教育体制を整備することが必要である。」との答申を受けて、生命保険協会が自主運営制度として設置したものであった。右の変額保険販売資格制度によれば、変額保険販売資格を得るためには、従来の定額保険の募集に必要とされている資格である初級課程試験合格に加え、中級専門課程試験に合格した者が、二日間以上かつ一〇時間以上の変額保険の販売にかかる研修を受けた上で、変額保険販売資格試験に合格すること、その上で、これを生命保険協会に登録して初めて効力が発生すると定められている。

⑨ 大蔵省は、右販売資格制度に関して、左のような見解を示している。

変額保険の募集に携わる者は、従来の定額保険の募集に必要とされている知識を有しているだけでは不十分であり、変額保険それ自体についての知識や金融知識もさることながら、その前提として、生命保険全般について高度の知識を有し、設計販売や商品比較その他の情報などについて的確に対応し得る販売技術を有することが必要である。変額保険は、保険金が将来の運用実績によって変動し、資産運用は一般勘定と分離して特別勘定を利用して行い、そのリスクを契約者が負担し、満期保険金及び解約返戻金についての金額の保証はないという従来の定額保険にはない特殊性を有していることから、これまでの保険の募集に必要とされている知識に加えて、変額保険の特徴や仕組みは勿論のこと、金融経済情勢面についても幅広い知識が要求されているからである。

⑩ 大蔵省は変額保険の昭和六一年一〇月発売に先立って、昭和六一年七月一〇日付蔵銀第一九三三号通達「変額保険募集上の留意事項について」により、保険会社各社に対して、変額保険募集上の留意事項として、「(1)変額保険募集上の禁止事項、①将来の運用成績について断定的判断を提供する行為、②特別勘定運用成績について募集人が恣意に過去の特定期間をとりあげ、それによって将来を予測する行為、③保険金額(死亡保険金の場合には最低保証を上回る金額)あるいは解約返戻金額を保証する行為、(2)無資格募集の禁止」と定めた。右の留意事項(1)の趣旨は、「保険金額が資産運用実績によって変動するという変額保険の仕組みの特殊性等に鑑み、契約者との無用のトラブルや募集秩序の混乱を防止し、当保険の健全な普及・発展を期すること」に、右留意事項(2)の趣旨は、「変額保険販売資格制度が、変額保険契約者の利益保護及び健全な募集秩序の維持を図るために業界自らが設定した趣旨を踏まえ、本制度の厳正かつ円滑な運営に務める事とし、いやしくも販売資格を有しない者が変額保険の募集に従事する等の募集上不適当な行為が行われることのないよう万全を期すること」にある。そして、大蔵省は本通達に関して、別途、「無資格募集は本制度の根幹を揺るがし、募集秩序の混乱を惹起する不適正行為」と断じ、「ひいては契約者とのトラブルの発生、契約者利益の阻害につながる。」と警告していた。なお、ここで保証する行為とは、変額保険の制度として保証する場合だけに限定されるものではなく、実質的に保証する行為を包含するものと解される。更に、大蔵省は、右通達に関して、「変額保険の募集に際して、通達に違反する行為があった場合には、保険募集の取締に関する法律(以下「募取法」という。)違反を問われ、業務停止、生命保険募集人登録の取消等の行政処分、更には懲役、罰金など刑事罰の適用を受けることとなる」としていた。

⑪ 大蔵省は昭和六三年五月二五日、保険会社各社に対して、「一時払養老保険の保険料ローンに代表されるような財テクを勧める等、保険本来の趣旨を逸脱した提携は行わない。提携先金融機関に対して、募取法違反がないよう徹底する。募集文書の作成にあたっては、過度に利殖性、有利性を強調しない」と、保険料ローンの提携の自粛を指導した。

⑫ したがって、右のように、変額保険が元来その仕組みが一般人に分りにくく、資産運用の危険を保険会社ではなく契約者自身が負担することになり、しかも資産運用には相当な困難が存在すること、相続税対策として変額保険契約を締結して、多額の保険料の一括支払のために高額の貸金契約を締結する場合には、貸金契約に基づく利息の負担を上回る変額保険における運用が確保されなければ損失が生じること、保険事故の発生時期等が不確定で長期的な展望が必要なこと、これらの事情から、変額保険及び貸金契約を結合した相続税対策には高いリスクが存在すること、それにもかかわらず、変額保険の仕組み、リスク及びこれを利用した相続税対策のリスクが、当時の一般市民には十分周知・認識されておらず、保険会社等から勧誘を受けた一般市民としては勧誘した保険会社及び銀行の説明からしか変額保険に関する情報を得ることができず、変額保険契約の締結に関する判断が困難な状況にあったこと、かかる状況を反映して、大蔵省が各生命保険会社に対して厳格な変額保険募集上の留意事項などを指導していることから、被告らには、原告らに対して、本件各変額保険契約の内容及びリスクについて、具体的に、「変額保険の運用が株式等投機性の高いものに高い割合で投資されること」、「満期金・解約返戻金は、最低金額が保証されておらず、払込保険料をいくらでも下回る危険性があること」、「右危険は全て保険契約者の負担となること」を説明すべき信義則上の義務があり、本件相続税対策が、変額保険の右の危険性ないしリスクの存在を原因として、相続税節税効果を発揮しない場合があること、そして、累積する貸金債務元利金が解約返戻金或いは保険金をはるかに上回り、場合によっては貸金債務を被担保債務とする担保権の実行等によって相続財産を失う危険性があることについて説明すべき義務があった。

(2)① 原告清三は自己の相続の際の相続税負担につき悩んでいたところ、平成元年七月二一日、当時、財団法人建設物価調査会副理事長の地位にあった高橋時造(以下「高橋」という。)から、その取引先である被告銀行が、被告保険会社とタイ・アップして、相続税対策となる良い保険を発売している旨の話を聞いた。すなわち、高橋は原告清三に対して、当時、被告銀行大伝馬町支店取引先第二課課長であった溝上雄一(以下「溝上」という。)が高橋に対して、「お宅の役員さんたちの中で、相続税対策で何かを考えていらっしゃる方を紹介して頂きたいのです。」と切り出し、「三菱銀行が明治生命とタイアップして勧めている保険で相続税対策に抜群の効果を発揮する借入金と変額保険を組合わせるシステムです。」「一円もお金を出して頂かなくてもよいのです。元手はいりません。相続税の心配な固定資産をお持ちの方をご紹介頂ければ、私どもで不動産を担保に保険料等を全面的に融資致しますので、その保険に入って頂ければいいのです。変額保険の運用の方が銀行金利よりずっと高いので、その利鞘がプラスになりますし、相続が起こったときに銀行借入などの負債があると、相続税の計算上有利になるのです。」「高橋さんはいかがですか。役員さん達の中で相続税対策をお考えの方がいらっしゃれば、紹介して頂きたいのですが。」と持ちかけたこと、その上で、溝上が高橋に対し、「この保険への融資はいささかまずいところがあって、問題が起こりそうなので、そのうち大蔵省からクレームが出て規制を受け、結局中止になるのではないかと思われるのです。ただ、先にした契約まで規制は及ばないので、実は、私も世田谷に親がいるので、この次の休みには、世田谷に帰って、この保険を親にも是非勧めたいと思っているのです。」「この近辺でも中小企業の経営者などがこの保険に興味を示してくれています。是非、相続税対策にお悩みのお知り合いなどいらっしゃいましたら、ご紹介下さい。」と述べたことを話した。

更に、高橋は原告清三に対して、溝上から聞いた話として、「この相続税対策が三菱銀行の全面的な融資のもとで、三菱銀行が明治生命と組んで売り出している保険で、借入金と組み合わせることによって抜群の相続税対策効果のあるプランであること、三菱銀行に土地さえ出せば、保険料も何もかも全て三菱銀行が責任を持ち、その借金が節税効果をあげること、その保険は運用がとても良く、銀行金利などをずっと上回っているらしいこと、借金は、相続の時に保険がおりるから、それで一切合切返済できた上、その残りで相続税の支払いもできるということ、結局、お客の方は一円も持ち出しがなくて、その上、相続税の心配がなくなるということ」、「なんでも、三菱と明治が始めたもので、今じゃ他も真似をしてきているらしい。うちは相続税を心配するような財産なんてないから断ったけど、その課長の話では、近所の中小の社長なんかがこの話に乗り気らしいよ。その課長自身が、自分の世田谷の父親に、この話を勧めるつもりだというんだから、よっぽどいい話なんだな。水田さんが、話聞きたいんなら、私が紹介するよ。きっと飛んできてくれるよ。その課長の話では、そのうち大蔵省から規制を受けて中止されそうだということだから、いまのうちということだろうね」と述べた。

原告清三は高橋の右の話を聞いて、「何よりも、天下の三菱銀行が強力に勧めている相続税対策であれば、堅実なものに違いない。その銀行の課長自らがやるというならこんな固い話はない。是非その三菱銀行の溝上課長を紹介してほしい。」と述べて、高橋に対して右の被告銀行の従業員を紹介するように依頼した。そこで、高橋は被告銀行の溝上課長に連絡して原告清三と連絡を取る旨要請した。

② 原告清三は、平成元年七月三一日、溝上から依頼を受けた明治生命保険代理社の従業員である稲垣勉(以下「稲垣」という。)と会って、稲垣の自己の能力及び変額保険の有用性に関して説明を聞いた。その際、稲垣は原告清三に対して、「水田様のような相続財産のある方は将来必ず何億円という相続税がかかってきます。そんな巨額の相続税を支払うとなると、せっかくの財産も手放さなくてはならなくなってしまいますよね。この保険は、水田様のようなご資産家に最も良い保険で被相続人にマイナス財産を作り、相続税がかからないようにするための保険で、奥様や娘さん、二次、三次と効果が続けられます。」「この保険も、一部の特定の人だけの特典的な保険となっているから、今しばらくで規制になり契約したくてももうできなくなります。」と本件各変額保険契約及び本件各貸金契約の締結を勧誘した。

原告清三が稲垣に対して、「私には土地・建物だけはあるが、保険料を支払う蓄えもなにもないけど良いのか。銀行から借りるしかないんですが、そもそも銀行が貸してくれるものなのですか。そんな大きな額の利息なんて、私の収入ではとても払えませんが。」と質問したところ、稲垣は「この保険はまさにそういう人のための保険なのです。不動産を担保にして三菱銀行から借り入れをし、それがマイナス財産として相続時に効果が出るのです。三菱銀行は、この相続対策のための変額保険契約に限り、特別に担保の範囲以内で無条件に貸してくれるのです。それに、利息も、一円も支払わなくても済むように、万事三菱銀行の方でとりはからってくれることになっているのです。利息が膨らめば膨らむほど、より相続税対策になっていくのです。」と説明した。そして原告清三が稲垣に対し、「その借金は、本当に、この保険で返済できるのですか。」と質問したところ、稲垣は、「その点は全くご心配無用です。この保険の過去の実際の運用は一二〜一五パーセントで、良い時は三〇パーセントを越えた時もあったんですよ。」と話した。稲垣は原告清三に対し、更に「保険金も変動しながらも上昇して行き、九パーセントで運用された時の死亡保険金が最低である。解約返戻金の方も変動しながらも上昇して行き、九パーセントで運用された時の金額が最低である。株にも運用しますがそれは本の一部で大部分は公社債とか債券とか安全なもので運用する。まあ、最悪の場合、安全にみて九パーセント運用で試算してみましょう。」と説明した。加えて、稲垣は原告清三に対し、債務を増加させて節税を図り、納税資金及び家族への生活資金を残すためにも、原告清三の家族全員、すなわち、原告東子、靖子も本件各変額保険の被保険者となることを勧誘した。稲垣はその上で原告清三に対し、「この保険も、一部の特定の人だけの特典的な保険となっていますから、今しばらくで規制になり契約したくてももうできなくなります。」と述べた。原告清三は稲垣の自己紹介のパンフレットを読み、稲垣の自信にあふれる説明を聞いて、稲垣のような専門家が保証し、被告銀行のような堅実な金融機関がバックアップするのであれば大丈夫であろうと信頼した。ただ、融資に関しては被告銀行に最終的に直接の確認をしなければ最終的な判断はできないと考えた。

③ 稲垣は原告清三に対し、右説明の数日後、保険金を金一億五〇〇〇万円とした相続税対策に関する私製の資料を交付して、原告清三が最悪の場合でも同資料の記載のとおりの相続税納税原資、例えば契約締結五年後で、金六八九二万円、同一〇年後で金七三三四万円、同一五年後で金七四七〇万円、同二〇年後で金七〇九五万円を取得できる旨を説明した。

④ 被告銀行大伝馬町支店取引先第二課所属の麻田俊弘(以下「麻田」という。)は、平成元年八月七日、稲垣から依頼を受けて、原告清三を来訪して、本件各変額保険契約に関する融資の話をした。麻田は稲垣から話を全て聞いているとのことで、すぐに融資のための諸手続の説明を開始した。その際、原告清三が麻田に対し、「私には土地・建物だけはあるのですが、保険料を支払う蓄えも何もなく、生活もギリギリというところなんです。年も年ですし、こういう条件の者でも、億を超えるような大金を融資してくれるのでしょうか。お宅を紹介してくれた高橋さんと違って、私は、お宅とこれまで全くつき合いもないし、こんな小さな会社を細々とやっているだけですし。第一、そんな大きな額の借金では、利息すらも、私の収入ではとても払えませんが。」と述べたところ、麻田は原告清三に対し、「ですから、この相続税対策は、そういう手持ち資金のない方のためのものなのです。うちの方で保険料も利息もすべてご融資させてもらい、そのこと自体が節税に効果を挙げるというシステムなんです。担保にする不動産さえおありになれば、利息が払えるかどうかは関係ないのです。利息のことなど心配しなくていい。元金も利息も全部水田さんの相続時まで据え置きですから。」と述べ、原告清三が亡くなるまで借り続け、返済は原告清三が亡くなった時にすることになる旨を回答した。そこで、原告清三は麻田に対し、「お宅への借金を全部返し切れないなんてことはないのですか。そうなっても、私には何の蓄えもないですから、どうしようもないのですが。」と質問したところ、麻田は「その返済のために、この保険に入って頂くのですよ。うちの返済の方は、この保険ですべて清算できますので、水田さんの方で心配なさることはありませんよ。」と回答した。その後、麻田は原告清三に対し、融資手続について、保険料やその他の費用を最初にまとめて融資し、後からカードで利息の分を融資することになることや、これから、担保の評価を調査しますとの説明があった。そして、麻田は原告清三に対して、「この保険と借り入れをセットにするのは相続税対策のために考案されたシステムらしいですが、稲垣さんが考案したシステムらしいですよ。結局、お客様の方では一円の持ち出しもなくて、相続税対策ができるのですから、実にうまい相続税対策ですね。」と述べた。

⑤ 原告清三は麻田の右説明を受けて、高橋、稲垣の説明通り被告銀行が本件相続税対策をバックアップしていることを確認して、変額保険を利用した本件相続税対策の有用性について信頼し、本件各変額保険契約及び本件各貸金契約の締結を決意し、その旨を稲垣に伝えた。そして、原告清三は本件各変額保険契約の内容を決定する資料として保険料支払目的の本件貸金債務の担保となる相続財産を評価する必要が生じたので、右評価を被告銀行に依頼した。稲垣は被告銀行から右の相続財産の担保評価を入手して、平成元年八月二三日、原告清三に対して、右の担保評価額を報告すると共に、本件貸金契約に基づく貸金債務の金額を連絡した。その際、稲垣は原告清三に対し、「担保評価額の三分の一を最初に借り入れし、その後、利息分を借り入れしていけば、約一五年間で融資限度額一杯になる。その後は、融資限度額を増額して利息金を追加借り入れしていくことになる。」と説明した。更に稲垣は、平成元年九月、原告清三のための具体的な相続対策プランを作成し、原告清三に対して説明した。右プランは、原告清三の加入保険金額を金一億五〇〇〇万円、原告東子の加入保険金額を金一億五〇〇〇万円、靖子の加入保険金額を金一億円とするものであって、死亡保険金は最低でも年九パーセントの利回りとなると強調した。加えて、稲垣は原告清三に対し、死亡保険金一億五〇〇〇万円の契約において、九パーセント運用の場合の解約返戻金は、契約締結四年後からは中途解約しても解約返戻金で借入元利金を返済してなお残余が出るようになると説明した。原告清三は稲垣に対して本件各変額保険契約に関するパンフレットの交付を請求し、稲垣から交付を受けたものの、稲垣は原告清三に対し、右パンフレットの内容に関しては何ら説明をしなかった上、むしろ、「このパンフレットでは借入金のことも相続税対策のことも載っていないので、見ても仕方ない。」と説明した。ただ、原告清三は稲垣から交付を受けた右パンフレットに記載された運用実績の例表に、運用実績を年九パーセント、年4.5パーセント、年〇パーセントとする各場合がそれぞれ記載されていることに気付いたので、稲垣に対し、運用実績が右の例表のように低くなることがあるのか否か質問したところ、稲垣は「いや、これは規則で印刷しなければならないので、載せてあるだけなんですよ。実際には、こんなに低くなったことなどありませんよ。年一二〜一五パーセントの運用が実際で、悪くみても年九パーセントを下回ることはまずありませんのでご心配なく。」と自信をもって否定したので、稲垣の右の説明を信用した。ところが、実際の運用利回りは、昭和六三年九月末時点では、年8.5パーセント、同年一二月末時点で、年9.1パーセント、平成元年三月時点では、年10.1パーセント、同年六月時点で、年8.9パーセント、同年九月時点では、10.4パーセント、平成元年一二月末の時点で、平均年11.9パーセントであって、稲垣の説明とは異なっていた。

⑥ 原告清三、原告東子、靖子は平成元年一〇月一三日、本件各変額保険契約に加入するための健康審査を受けた。しかし、右健康審査の結果、原告らにはいずれも問題があることが分ったので、同年一二月一二日、原告清三に対して再健康審査を行った。その結果、原告清三の死亡保険金を当初予定の金一億五〇〇〇万円から金二億円に、原告東子の死亡保険金を当初予定の金一億五〇〇〇万円から金一億円に変更することとなった。そこで、稲垣は原告清三に対し、右の内容の保険に関する資料を交付し、保険金額だけが変わっただけで、その余の内容は従来通りであると述べた。また、稲垣は原告清三に対し、同月中旬から平成二年一月にかけても、従来と同様、「借入元利金が年月の経過と共に、上昇して行き、死亡保険金自体上下に変動しながらもどんどん上昇して行き、借入元利金を常に上回った状態で増えていく。借入元利金は、そのうち、保険金額を突破して上昇していくが、実際の保険金は上下の変動がありながらも、借入元利金を常に上回る形で上昇し、その差額が納税資金等に充てられる。借入限度額も一応設定されている範囲内で借入を続けられるが、実際の死亡保険金自体も、この借入限度額を突破してなお増加して行き、借入もずっと続けていくので、限度額も更に増加されていく」と説明していた。

⑦ また、稲垣は原告清三に対して、平成元年一二月に、「相続対策プラン」と題する書面を交付した上で、「最悪の場合でも、このように相続税対策効果が保証されています。」と確約したが、本件各変額保険契約を解約する場合の説明は一切しなかった。本件変額保険契約一に関して解約返戻金の例表が記載されており、それは、最悪の場合でも契約締結二年後には、解約返戻金が保険料を上回るような記載がされていた。

⑧ なお、稲垣は原告清三に対し、本件各変額保険契約に関する「契約のしおり」と題する小冊子を交付したが、その際、「こんなものは誰も読まないから」と述べた。

(3) したがって、被告銀行は保険募集資格を持たない者の保険契約募集行為を禁止した募取法九条に違反した上、被告銀行及び被告保証会社は本件各変額保険契約及び本件相続税対策のリスクについて説明を何ら行わなかったので、被告銀行及び被告保証会社は前記信義則上の説明義務に違反している他、被告らは、原告清三が元来有していた自己の死亡に伴う原告東子及び靖子の相続税負担に対する不安・憂慮の念を増幅させた上で、被告保険会社において、変額保険特別勘定の過去の運用実績に関して年三〇パーセントで運用された時期もあったと恣意的に過去の特定の時期の実績につき説明し、過去年一二ないし一五パーセントで運用されていた等と虚偽の事実を告げ、更には、最悪でも年九パーセントは間違いないと断定的な判断を提供して、運用実績若しくは保険金額及び解約返戻金の最低保証をする一方、前記の本件各変額保険契約のリスク及び本件相続税対策のリスク、具体的には変額保険特別勘定の運用利回りが年九パーセントを、ひいては本件各貸金契約に基づく利率をも下回って、その結果、保険金若しくは解約返戻金によって本件各貸金契約に基づく貸金元利金を完済することができなくなる危険性があり、その結果として、原告清三が本件各貸金債務を被担保債務とする担保権の実行等により相続財産を失う危険性があることを何ら説明しなかったものであり、かかる被告保険会社の勧誘行為は、保険契約の重要事項についての説明義務を規定した募取法一四条、一五条二項、一六条一項一号に違反する上、大蔵省による行政指導若しくは前記の信義則上の説明義務にも違反するものである。

(4) (詐欺)

① 被告保険会社は本件各契約締結当時、変額保険市場の手詰まり状況を打開し、変額保険の飛躍的な売上向上を図ろうとして、本件相続税対策を内容とする金融商品の売上を被告銀行と提携して、被告保険会社及び明治生命保険代理社全体で、本件相続税対策を内容とする商品の売上推進に努力していた。稲垣も、かかる被告保険会社及び明治生命保険代理社の方針に沿って、被告保険会社に巨額の保険料を獲得させ、併せて自己の巨額の手数料収入を得るために、原告清三に対して本件相続税対策を勧誘していた。

② 被告銀行においても、当時の金余り状況の中で、苛酷な収益競争を繰り広げていたところ、本件相続税対策としての本件各契約は、個人消費者層に対する億単位の金員の貸付を可能にし、これにより巨額の利鞘を確保することができるものであり、被告保証会社においても保証料収入を得ることができるため、好都合な商品であった。そして、本件相続税対策の難点である、変額保険特別勘定の運用実績上の運用利回りが、本件貸金債務の利率を下回り、その結果、変動保険金及び死亡保険金並びに解約返戻金によって本件貸金債務の返済ができなくなる危険性がある点については、保険契約者若しくは不動産所有者の自己責任とするということで、被告らの提携による本件相続税対策が成立したものである。

③ 溝上、稲垣、麻田は右②の被告ら間の提携関係にしたがって、原告清三に対し、本件各契約締結に際し、原告清三死亡後の相続税負担の巨額さを強調して、その相続税負担に対する不安感を増長した上で、本件各変額保険契約に基づく解約返戻金若しくは変動保険金には最低保証がなく、本件各変額保険の特別勘定運用が株式等投機性の強いものによって運用されるため、右解約返戻金若しくは保険金が払込保険料を下回る危険性があり、したがって、解約返戻金若しくは保険金が本件貸金債務の金額を下回る危険性があって、その結果、解約返戻金若しくは保険金では本件貸金債務元利金を完済できず、本件貸金債務を被担保債務とする根抵当権の実行を受けて、相続財産を失う危険性があるのに、変額保険による保険料は公社債等安全な資産で運用されるところ、過去に年三〇パーセントを超える運用実績を挙げたこともある上、過去においては概ね年一二パーセントないし一五パーセント程度の運用利回りを挙げており、今後も最悪でも年九パーセントの運用利回りが保証できると述べ、稲垣が原告清三に交付したパンフレットの運用利回り年4.5パーセント、〇パーセントの例表についても、このように低下することは実際にはないと説明し、原告清三が一円も出捐することなく相続税対策ができるものと告げて、原告清三を欺き、その旨誤信させた上、本件各契約を締結させた。

(二) (請求の趣旨一2、二―錯誤・詐欺による本件貸金債務不存在確認・不当利得)

(1) (詐欺)

① (一)(4)と同じ

② 原告清三は被告らに対し、本件訴状により、本件各契約を右詐欺に基づいて、各取り消す旨の意思表示をし、右訴状は平成五年五月七日、被告らに各到達した。

(2) (錯誤)

① 原告清三は、本件各変額保険契約締結当時、本件各変額保険契約に基づく解約返戻金は最低額が保証されておらず、払込保険料を下回る危険性があること、右危険が原告らの負担となっているにもかかわらず、かかる事情が存在せず、本件各変額保険契約に基づく解約返戻金は最低額が保証されており、払込保険料を下回る危険性はないと誤信していた。

② 原告清三は本件各契約締結の際、本件各契約を内容とする本件相続税対策が、本件各変額保険契約に基づく解約返戻金が払込保険料を下回る危険性があり、したがって、相続税対策としての効果を有しない危険性がある他、解約返戻金或いは保険金を本件貸金債務元利金がはるかに上回り、場合によっては、担保権の実行等によって相続財産を失う危険性があるにもかかわらず、右の各危険性が全くなく、したがって、本件各契約を締結することにより、本件各貸金契約に基づく貸金債務により相続税減税効果を享受するとともに、本件各変額保険契約に基づく解約返戻金若しくは保険金により本件各貸金債務について完済でき、自ら出捐する必要はなく、その上に相続税納税資金をも取得できるものと誤信していた。

③ 原告清三は被告らに対し、本件各契約締結に際し、右の本件各契約の内容及び本件相続税対策の内容に関して、本件各変額保険契約に基づく解約返戻金若しくは保険金に最低保証があり、払込保険料を下回ることはなく、本件各契約を締結することによって、本件貸金債務により相続税減税効果を享受できる他、本件各変額保険契約に基づく解約返戻金若しくは保険金により本件貸金債務について自ら出捐することなく完済でき、更に相続税納税資金も取得できるものであるので、本件各契約を締結する旨述べた。

(3) したがって、本件各契約はいずれも、(1)の事情により詐欺を原因として取り消されたか、(2)の事情により錯誤無効であって、原告清三の被告銀行に対する本件各貸金契約に基づく本件貸金債務は不存在であり、被告保険会社は原告清三に対し、本件各変額保険契約に基づいて受領した保険料等を、被告保証会社は原告清三に対し、本件保証委託契約に基づいて受領した保証料を、それぞれ不当利得として返還すべき債務がある上、被告保証会社は原告らに対し、本件貸金債務を被担保債務とする本件根抵当権設定契約に基づく本件根抵当権設定登記の抹消登記手続をすべき義務がある。

4  被告らの主張

(一) (被告銀行及び被告保証会社の主張)

(1)① 本件各貸金契約及び本件各変額保険契約並びに本件保証委託契約及び本件根抵当権設定契約によって構成される本件各契約は、一体不可分のものではなく、銀行等において融資を行うことを前提として商品等を購入する場合一般に、右商品に関して銀行等の融資機関が説明すべき義務を負担するものとは解されないから、本件各変額保険契約及び本件相続税対策が本件各貸金契約を前提としているとしても、被告銀行及び被告保証会社は原告に対して本件各変額保険契約及び本件相続税対策の内容若しくはリスクについての説明義務を負担しているとはいえない。

② 本件各貸金契約に限らず、全ての貸金契約が貸付からの時間の経過に伴い、利息が増加していくリスク及び予定していた返済原資が予定どおりに確保できないことにより返済不能に陥るリスクを内包しており、かつそのことは社会常識であることから、被告銀行が本件貸金契約締結に際して、あらためて説明すべき義務を負担するとはいえない。

③ 本件根抵当権設定契約若しくは本件保証委託契約に限らず、本件貸金契約に基づく貸金債務を返済原資が予定どおりに確保できないことにより返済不能に陥った場合には、本件保証委託契約に基づく求償請求を受け、本件根抵当権の実行がなされることは一般常識であって、被告銀行若しくは被告保証会社において、この点につき、本件の場合にあらためて説明すべき義務を負担するものではない。

(2)① 麻田が原告清三に対し、平成元年八月上旬、初めて面談した際に、原告清三は既に本件各契約を組み合せた本件相続税対策を行うことを決意していた。

② 被告銀行は、本件各貸金契約締結の際、稲垣が原告清三に対して、本件各契約若しくは本件相続税対策に関して、原告ら主張のような勧誘・説明を行ったかどうか知らなかった。

(3)① 原告清三は本件各変額保険契約締結の際、変額保険に運用のリスクがないものと誤信し、変額保険の運用が低迷して相続税対策とならない場合がありうることを知らなかったとしても、本件各貸金契約の動機の錯誤とはいえない。

② 原告清三は、変額保険が契約者から払い込まれる保険料の一部を、保険会社が他の保険種類にかかる資産から区別した上で、これを主として、上場株式・公社債等の有価証券に投資して、その運用実績にしたがって保険金額及び解約返戻金の額を変動させる仕組みの保険契約であり、そのため変額保険契約に基づく保険金若しくは解約返戻金が保険料の株式等の有価証券による運用実績を反映すること、株式市場が国内外の政治・経済情勢、上場企業の実績、業績展望等の雑多な要因により日々目まぐるしく変動していること、そのためその正確な予測は困難であることを知りながら、そして、本件各変額保険契約のパンフレットにも「ご契約者は…中略…株価の低下や為替の変動による投資リスクを負うことになります。」との記載があり、しかも、原告清三には会社経営者として少なくとも一〇年以上の経験があり、その間、金融機関からの借入の経験をも有しているのであるから、経済活動若しくは金融取引について十分な知識・経験を有しており、更に、相続税対策が被相続人の死亡時期、税制の改正、物価の変動等の不確定要素に左右される性質のものであることは一般常識である。

(4) 原告清三が本件各契約締結の際、本件各変額保険契約の保険料の運用が確定的であると安易に誤信した点には重過失がある。

(二) (被告保険会社の主張)

(1)① 稲垣は原告清三に対し、平成元年七月二四日、本件各契約に関して、本件各契約が不動産を多く所有している資産家の相続税対策を目的として、終身型の一時払変額保険に加入することを内容とすること、変額保険の保険料の運用が株式・債券等を中心に行われること、死亡保険金は最低保証があること、変額保険の保険金若しくは解約返戻金が運用実績に応じて変動すること、運用の結果が変動保険金・解約返戻金の金額に直接反映されるため、運用実績次第では高い収益が見込まれる反面、死亡保険金若しくは解約返戻金には最低保証がないことから、ハイリスク・ハイリターン商品といわれていること、右変額保険の保険料は所有不動産に担保権を設定して、銀行から借り入れること、右借入金の利息も銀行から新たに借り入れること、契約者は被相続人として、被保険者は被相続人とするもの及び相続人とするものの双方を用意すること、被保険者を被相続人とする保険契約により、相続税納税資金を準備することを目的とすること、被保険者を相続人とする保険契約は相続財産の圧縮効果が期待できる上、相続発生時に解約してもよいが、配偶者等の相続人が契約を承継すれば、配偶者等の相続人の相続発生時に再度同様の効果が期待できることから二次相続税対策効果があるので、解約しない方が有利であること、相続人を被保険者とする保険契約は、相続時にその価値が増大しても、その相続税評価額は払込保険料と同視されるだけであるので、同保険契約の保険料による運用実績が良好であれば、含み益を生ずることができること、その一方で、借入元利金は被相続人の債務として相続財産の評価を減額させるので変額保険及び借入元利金を含めた総体としての相続財産が減額評価されること、本件相続税対策は本件各変額保険契約による保険料の運用実績を年九パーセント、借入金利を年六パーセントと仮定していること、変額保険の運用実績はその発売当初は年四〇パーセントを超えることもあったものの、一定のものではなく、したがって、保険金等が変動し、被保険者死亡の場合の死亡保険金額のみは保証されているものの、解約返戻金もしくは変動保険金は運用実績が下がった場合には差損を生じる危険性もあること、それゆえ、変額保険がハイリスク・ハイリターン商品であるといわれていることをパンフレット等を交付して説明した。交付したパンフレットには、変額保険に関して「この保険は運用実績に応じて保険金額が変動します。したがって、下図例1・例2のように保険金額は増減し、一定ではありません。」と記載されている他、変動性を示す図の記載があり、また、運用実績が年九パーセント、年4.5パーセント、年〇パーセントの各場合の契約締結後の経過年数に応じた保険金及び解約返戻金の変化を示す例表が掲載され、これについて、「変額保険は保険金額・解約返戻金が変動するしくみの保険ですが、保険の内容、特質をご理解いただくために下記例表を掲載しています。この例表の数値は、例示の運用実績が保険期間中一定でそのまま推移したものと仮定して計算したものであり確定数値ではありません。実際のお受取額は、運用実績および配当実績により変動(上下)しますので、将来のお支払額をお約束するものではありません。」と記載され、特に「例示の運用実績が……将来のお支払額をお約束するものでありません」との部分は太字で強調して記載されている。更に、「※ご契約者は、経済情勢や運用如何により高い収益を期待できますが、一方で株価の低下や為替の変動による投資リスクを負うことになります。」との記載がある。

② 稲垣は平成元年八月二二日、麻田から原告らの所有不動産の担保評価が金四億六一〇〇万円となるとの連絡を受けた。そこで、稲垣は右評価額の三分の一である金一億六〇〇〇万円程度を一時払保険料とする本件相続税対策を作成した。その上で稲垣は原告清三に対して、平成元年九月一九日、保険料を約金一億六〇〇〇万円としたので、借入元利合計金額が担保評価額である金四億六一〇〇万円となるには一七〜八年かかる。そして一七〜八年後には不動産価格が上昇していると予想されるので、担保評価額が増額して、その分借り増すことができると説明して、右①の説明を繰り返し行った。これに対して、原告清三は「なかなか良さそうなプランで、特に不動産資産が大半の私のような者にはうってつけのような気がする。」と述べた。稲垣は最後に保険加入には健康審査が必要であることを告げて説明を終了した。

③ 稲垣は原告清三に対し、平成元年九月二八日、本件各変額保険契約の内容について解説した小冊子である「ご契約のしおり」を送付し、原告清三はこれを受領したが、同小冊子にも前記①のパンフレット記載と同旨の記載がある。

④ 原告東子は平成元年一〇月一八日受診した健康審査の結果、保険金額を金五〇〇〇万円以下としなければ契約できないと判定された。そこで、稲垣は本件各変額保険契約の内容を当初の原告清三につき保険金額金一億五〇〇〇万円、原告東子につき、保険金額金一億円としていたものから、原告清三については、金二億円、原告東子については金五〇〇〇万円とすることを原告清三に対して提案したところ、原告らの同意を得たのでこの旨決定した。

⑤ 以上のように稲垣は原告清三に対して、本件各変額保険契約の保険金若しくは解約返戻金に最低保証がなく、保険料による運用実績に応じて変動すること、運用実績によっては、保険料を解約返戻金等が下回る可能性があることを説明して、本件各変額保険契約及び本件相続税対策のリスクについて説明を尽くしており、稲垣の本件各契約勧誘行為は原告ら主張の説明義務違反若しくは詐欺を内容とする不法行為を構成しない。

(2) 原告清三は稲垣の説明及び稲垣が原告清三に対して交付した説明資料によって、変額保険の運用上のリスクを契約者が負担しなければならないことを十分に知っていた上、予想を超える経済情勢の変動その他の様々な要因の変化によって、本件相続税対策が期待した効果を挙げない可能性があることを知っていた。したがって、原告清三が本件各契約締結の際に、原告ら主張の錯誤に陥っていたとはいえない。

二  争点

1  被告らの従業員の原告らに対する本件各契約締結に向けた勧誘行為が説明義務に違反し違法なものといえるか。

2  被告らの従業員の原告らに対する本件各契約締結に向けた勧誘行為が、原告らに対する欺罔行為といえるか。

3  本件各契約締結に際して、原告清三に要素の錯誤があったか。

第三  争点に対する判断

一  争点1について

1  甲第一ないし第四号証、第一四号証の一ないし二四、第一五号証、第一八号証の一ないし五、第二九号証、第三〇号証の一ないし三、第三五号証、第三八号証の一ないし五、第三九号証、第四〇号証の一、二、第五一号証の一ないし六、乙第一ないし第四号証、第五、第六号証の一ないし三、第七号証、第八号証の一ないし三、丙第二、第三号証の一ないし八、第一八号証、証人稲垣勉、同麻田俊弘の各証言、原告水田清三本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、以下のとおり認められる。すなわち、

(一)(1) 平成元年七月二〇日ころ、被告銀行大伝馬町支店取引先第二課長であった溝上及び同課所属の麻田が被告銀行の取引先であり、財団法人建設物価調査会副会長であった高橋を訪問して、高橋に対し、「お宅の役員さんたちの中で、相続税対策で何かを考えていらっしゃる方を紹介していただきたいのです。三菱銀行が明治生命とタイアップして勧めている保険で、相続税対策に抜群の効果を発揮する借入金と変額保険を組み合わせるシステムです。一円も出して頂かなくてもよいのです。元手はいりません。相続税の心配な固定資産をお持ちの方をご紹介いただければ、私どもで不動産を担保に保険料などを全面的に融資致しますので、その保険に入っていただければいいのです。変額保険の運用の方が銀行金利より、ずっと高いので、その利ざやがプラスになりますし、相続が起こったときに銀行借入元本などの負債があると、相続税の計算上有利になるのです。高橋さんはいかがですか。役員さんで相続税の対策をお考えの方はいらっしゃいませんか。」と本件各変額保険契約を中心とした本件相続税対策の効用を説明し、相続税対策を必要としている資産家の知人を紹介するように要請したこと、

(2) 原告清三は、養父の死亡時に本件土地・建物を相続したことによる相続税を納税するに際して非常に苦労した経験があること、平成元年当時、不動産市況が高騰し、その後も高騰を継続するものと予想されていたことから、原告清三自身の相続発生時に高額の相続税が原告東子及び靖子に課税され、原告東子、靖子がそのような高額の相続税を支払う資力を有しないことから相続税を納税できず、その結果、本件土地・建物を処分するように迫られることを非常に危惧していたこと、

(3) 高橋が、原告清三が従前から相続税対策に悩んでいたことを思い出して、原告清三に対し、溝上らから聴取した変額保険を用いた右相続税対策について説明したところ、原告清三が右の相続税対策に興味を示したので、高橋が、原告清三を被告銀行に対して紹介することとし、高橋が溝上に対し、原告清三が変額保険を利用した本件相続税対策に関心を有していることを連絡したこと、

(4) 溝上が高橋の右連絡を受けたので、麻田は明治生命保険代理社の従業員であり、変額保険販売資格を有する稲垣に、原告清三を紹介し、稲垣から原告清三に対して変額保険及びこれを利用した本件相続税対策の内容に関して説明するように要請したこと、

(二)(1) 稲垣は、平成元年七月二四日、原告清三を訪問して、本件各変額保険契約を中心とする本件相続税対策に関して、左の記載のある甲第三号証、乙第二号証等を交付して、左のとおり説明・勧誘を行ったこと、

① 相続税の節税対策としては相続財産の評価を減額させるとともに、相続財産の含み益を可及的に増大させることが必要であり、本件相続税対策としては原告清三が土地等の不動産資産を所有しており、将来高額の相続税課税が予想されるため、いわゆる資産家向けの相続税対策を考慮することが妥当であること、本件相続税対策は、被相続人が被告保険会社の開発した終身型の一時払変額保険に加入し、その保険料は所有不動産に担保権を設定して、被告銀行から借り入れ、同借入金の利息についても被告銀行から併せて借り入れる内容であること、

② 本件相続税対策としての変額保険は、保険契約者はいずれも被相続人とし、被保険者は被相続人である原告清三とする本件変額保険契約一と、相続人である原告東子、靖子とする本件変額保険契約二ないし四とすること、本件変額保険契約一が、原告清三に相続が発生した場合の死亡保険金によって相続税納税資金を準備することを目的とすること、相続人を被保険者とする本件変額保険二ないし四については、原告清三の相続時に右各契約の価値が増大していても、その相続財産としての価値はそれぞれの払込保険料と同額と評価されるので、変額保険特別勘定の運用がうまくいけば変額保険契約に基づく解約返戻金若しくは変額保険金の金額が払込保険料を上回る結果、含み益ができること、相続人原告東子若しくは靖子が被保険者となる本件変額保険契約二ないし四が、相続時に解約することもできるが、相続人である原告東子が契約者の地位を承継すれば、同人の相続発生時に本件変額保険契約一と同様の効果を期待できるので、解約しない方が有利であること、被保険者が被相続人、相続人のいずれにせよ、借入元利金の累計が被相続人原告清三の債務として、相続財産の評価を減額するので、相続税がそれに対応して減少すること、

③ 本件相続税対策が、変額保険特別勘定の運用利回りが年九パーセントであること及び本件貸金債務の利率が年六パーセントであることを前提とすること、変額保険の特別勘定運用実績が過去に年四〇パーセントとなることもあったが、一定ではなく、運用実績に応じて保険金等の金額が変動するが、被保険者死亡の場合の死亡保険金は被告保険会社が保証していること、解約返戻金には最低保証がないので、運用実績が下がった場合は解約返戻金が低下し、払込保険料を割り込んで、差損が生じる場合もあること、

(2) 乙第二号証には、変額保険特別勘定運用実績を年九パーセント、払込保険料支払のための貸金契約の利率を年六パーセントとした場合に、被相続人の死亡保険金、貸金債務元利金合計の推移及び死亡保険金額から貸金債務元利金合計金額を控除した残額としての相続税納税原資金額の推移並びに相続人に支払われる解約返戻金、貸金債務元利合計金及び相続財産の評価減、含み益の増大等の相続税節税効果の推移が記載されていること、

(3) 稲垣は原告清三に対し、同号証の図表を見ながら、相続発生時の際の死亡保険金と借入元利金合計金額との差額が相続税納税原資とできること、借入元利合計の増額状況と一時払保険料との差額が相続財産からの債務控除額となること、相続発生の場合に、契約者変更を行えば、二次相続の場合にも死亡保険金が支払われ、一つの商品で二度効果が挙がるので、本件変額保険契約一を解約することもできるが、名義変更する方が得策であること、死亡保険金及び変額保険の特別勘定の運用実績を考慮した変額保険の運用現金価値すなわち解約返戻金が変額保険の特別勘定運用実績が年九パーセントで運用されたこと、借入元利金合計が借入利率を年六パーセントの複利計算により算定されていることを前提としている旨の同号証の注意書の記載の趣旨に関して、それぞれ説明したこと、

(4) 甲第三号証には、変額保険とは保険料が一定で保険金額が特別勘定の資産の運用実績に基づいて増減する生命保険であること、特別勘定とは変額保険にかかわる資産の運用を行うもので、他の保険種類にかかわる資産とは区分し、独立して管理・運用を行うもので、運用対象は上場株式、公社債等の有価証券を主体とし、具体的投資対象は国内外の経済・金融情勢、株式・公社債市況の動向等を勘案して決定するとされていたこと、そして、※印を付した上で、「ご契約者は、経済情勢や運用如何により高い収益を期待できるが、一方で株価の低下や為替の変動による投資リスクを負うことになる」旨が記載されている他、特別勘定の資産の運用実績例表と題して、特別勘定の運用実績が、それぞれ年〇パーセント、年4.5パーセント、年九パーセントの各場合の死亡・高度障害保険金、解約返戻金の金額の推移を記載した図表が掲載され、同表に関して、「例示の運用実績が保険期間中一定でそのまま推移したものと仮定して計算したものであり確定数値ではありません。実際のお受取額は、運用実績および配当実績により変動(増減)しますので、将来のお支払額を約束するものではありません。」との記載があること、更に、基本保険金に関して、「ご契約の際にお決めいただく保険金のことで、死亡・高度障害のときにこの保険金額は最低保証します。」、変動保険金に関しては、「運用実績により増減する前月末の積立金をもとに毎月一日に計算される保険金です。」、死亡・高度障害保険金に関して、「基本保険金額と死亡した日または高度障害状態に該当した日の属する月の変動保険金額の合計額です。ただし、変動保険金額が負の場合でも、最低保証により基本保険金額を下回ることはありません。」との各記載があり、解約に関するご注意として、「返戻金はお払込みいただいた保険料そのままではありません。返戻金は、運用実績によって毎日変動します。したがって、定額保険とは異なりあらかじめ確定した金額のお支払をお約束するものではありません。」との記載があること、

(5) 稲垣が原告清三に対して、同号証を見ながら、変額保険が約三年前に発売開始されたこと、保険料の大部分は株式と債券を中心に運用をして、その運用益に基づいて変動保険金が決定されること、運用利回りがずっと、年九パーセントで続いた場合には死亡保険金が相続対策プランの死亡保険金の例表のように増額すること、そして、これはあくまで年九パーセントの運用が続いたと仮定した場合で、発売開始当時は運用実績が年四〇パーセントを超えたこともあったが、将来的に利回りを保証するものではなく、死亡保険金がこのように下がることもあるかもしれないと同号証の変動保険金の増減を示す図の中で変動保険金額の低下した箇所を指で示しながら説明したこと、ただ死亡保険金については生命保険であることから、基本保険金に最低保証があるものの、解約返戻金については最低保証がなく、運用実績によって、その金額が日々変動することを説明したこと、

(6) 稲垣は、当時、生命保険各社が三ヶ月おきに一般新聞紙上に公表していた変額保険の運用実績に基づき、変額保険特別勘定の運用実績が、年八ないし一四パーセント程度の利回りで、非常に良い状況にあると認識しており、被告保険会社の昭和六二年九月加入分の昭和六一年一一月から昭和六三年九月までの運用期間における利回りが年1.7パーセントであったことまでは知らなかったため、当時の実績として変額保険特別勘定の運用利回りが年九パーセントを下回ったことがないと説明し、原告清三に対して提示した乙第二号証の試算例で年九パーセントの運用利回りを例示したのは、当時の運用実績にできるだけ合せた試算例を説明したかったこと、本件各契約締結交渉当時の、被告保険会社における変額保険の運用実績は契約月別の利回り平均が、運用期間をそれぞれ、昭和六一年一一月から昭和六三年九月までとすると年8.5パーセント、昭和六一年一一月から昭和六三年一二月までとすると年9.1パーセント、昭和六一年一一月から平成元年三月までとすると年10.1パーセント、昭和六一年一一月から平成元年六月までとすると年8.9パーセント、昭和六一年一一月から平成元年九月までとすると年10.4パーセント、昭和六一年一一月から平成元年一二月までとすると年11.9パーセントであったこと、昭和六二年九月加入分も運用期間を平成元年九月まで伸張すると、年14.8パーセントの運用実績になっていたこと、昭和六一年一一月から昭和六三年九月までの運用期間において、昭和六一年一〇月加入分、昭和六二年二月加入分、同年五月加入分の運用利回りは、それぞれ、年31.5パーセント、年19.5パーセント、年7.7パーセントであったこと、昭和六一年一一月から昭和六三年一二月までの運用期間において、昭和六一年一〇月加入分、昭和六二年三月加入分、昭和六二年七月加入分、昭和六二年一二月加入分の運用利回りは、それぞれ、年35.2パーセント、年19.3パーセント、年7.2パーセント、年10.9パーセントであったこと、昭和六一年一一月から平成元年三月までの運用期間において、昭和六一年一〇月加入分、昭和六二年四月加入分、昭和六二年一〇月加入分、昭和六三年三月加入分の運用利回りはそれぞれ、年四一パーセント、年22.1パーセント、年12.9パーセント、年7.9パーセントであったこと、昭和六一年一一月から平成元年六月までの運用期間における、加入月別運用成績は、昭和六一年一〇月加入分が年42.1パーセントで最も高く、昭和六三年四月加入分が年7.4パーセントで最も低かったこと、昭和六一年一〇月加入分から昭和六三年六月加入分までのうち、加入月の七分の五の運用実績が年一〇パーセントを超えていたこと、運用期間を平成元年九月まで伸張し、加入月を昭和六三年九月まで伸張すると、運用成績は各加入月分全て年一一二パーセントを超えていたこと、運用期間を平成元年一二月まで、加入分を昭和六三年一二月まで伸張させても、運用成績は加入月全てにおいて、年14.9パーセントを超えていたこと、これらの運用実績については一般人によって入手可能な経済誌に掲載されていたこと、

(三) 原告清三は稲垣に対して、原告清三が土地建物は所有しているが、保険料を支払う蓄えは何もなく、銀行から借りるほかないが、銀行が原告清三に対して貸し付けるのか、また、銀行から借り入れできても借入金に対する利息を原告清三の収入では返済できないが、問題ないかどうか質問したこと、これに対して、稲垣は原告清三に対し、本件相続税対策が原告清三のような者のためのプランであり、利息が膨らめば膨らむほど相続税対策の効果がより挙がると説明したこと、これは、保険料一時払の変額保険の場合、一時払した保険料が当該保険の相続財産としての評価額となり、借入元利金が一時払した保険料を超過した金額が相続財産上マイナスの効果を有することになり、利息が増大して右の超過部分が増大すれば、右の相続財産評価に対するマイナス効果が増大するので相続税対策としての効果が増大するという趣旨であったこと、そして、右説明は、運用実績が年九パーセント、借入金利が年六パーセントの場合を前提としていたこと、

(四) 原告清三は稲垣に対して、本件相続税対策について、大変良いプランであり、不動産の多い私のような者には最適のプランだと思うと感想を述べたこと、そこで、稲垣は原告清三に対して、不動産担保評価額が定まらないと、借受金額が特定せず、したがって、保険料の設定ができないので被告銀行に担保評価を行って貰ったらどうかと提案したが、同日は原告清三は被告銀行に担保評価を依頼するとまでは述べなかったこと、

(五) 同年八月三日、稲垣が原告清三に連絡して担保評価を行うことにしたかどうか尋ねたところ、原告清三は被告銀行に対して担保評価を依頼する旨回答したこと、そこで、稲垣は原告らのために詳しい相続税対策を立案する上で必要であるとして、原告清三から、原告らの家族構成及び家族の生年月日の説明を受けたこと、

(六) 平成元年八月七日、麻田が初めて原告清三を訪問し、原告清三と面談したこと、その際、原告清三が麻田に対して被告銀行から借入をするにせよ、しないにせよ、原告清三の所有不動産に対する評価を行うことを依頼したので麻田がこれを了承したこと、この際、麻田は原告清三が本件各契約による本件相続税対策について全て分っており、非常に良いシステムに巡り会ったという心境になっている印象を受けたこと、

(七) 稲垣は被告銀行に対して、顧客の相続財産の評価を行った場合には評価内容を連絡するように予め依頼していたところ、平成元年八月二二日、麻田から原告清三の相続財産についての担保評価が金四億六一〇〇万円と確定した旨の連絡を受けたこと、稲垣は右の連絡を受けて保険料総額が金一億五〇〇〇万円程度となるような変額保険に加入することを計画して、原告清三については死亡保険金一億五〇〇〇万円、一時払保険料金八六五三万五〇〇円、原告東子については、死亡保険金一億五〇〇〇万円、一時払保険料金六五八五万一五〇〇円、靖子については、死亡保険金一億円、一時払保険料金一六〇二万四〇〇〇円という内容の変額保険契約に各自加入し、一時払保険料を全額被告銀行から年利六パーセントの約定で借り入れることを内容とする乙第四号証のシミュレーションを作成したこと、右の計画では保険料総額を被告銀行から借り入れ、右借入金に対する利息も更に被告銀行から借り入れることが前提となっており、稲垣が借入金合計額が相続財産の担保評価額に到達するには、本件各契約締結後一七ないし一八年程度の経過を要すると判断したこと、本件各契約締結後一七ないし一八年経過すれば、本件土地・建物の評価が増額されて担保評価額の増額見直しを行うことができることになり、更に借り増すことができるようになること、そこで、保険料総額を相続財産の担保価値一杯に設定しなかったこと、この点、二年ないし三年程度で担保評価額一杯に貸付元利金が到達するような場合には、二年ないし三年程度では担保評価額が増大しておらず、貸付金の利息の借り増しができない結果になることが理論的にありえ、その結果大きな問題となることを懸念していたこと、靖子を被保険者とする変額保険契約を締結する理由としては、原告清三の相続及び原告東子についての二次相続の際の相続財産の評価減の効果を挙げることを考えていたこと、靖子の変額保険は死亡保険金が期待されていたわけではないこと、基本的には解約が前提であったこと、ただ名義変更すれば靖子自身の保険にも援用できるので、解約だけを目的としたものではなかったこと、

(八) 稲垣は、平成元年九月一九日、原告清三に対し、乙第四号証を交付して、前記の内容の相続税対策を説明したこと、原告清三から、借入金利は年利六パーセントの固定金利なのかどうかとの質問があったので、稲垣は、いままでの経験から現行の長プラの年利六パーセントで作成したが、詳しくは被告銀行に問い合せてほしい旨を回答したこと、その上で、本件各変額保険契約締結には、健康審査が必要である旨を説明すると、原告清三が、右健康審査の方法等について説明を求めたので、稲垣が原告清三の自宅でも可能であるが、被告保険会社本社であれば、いつでも健康審査を受けることができる旨を説明したこと、

(九) 稲垣は、同月二五日ころ、原告清三に健康審査を受けるか否か問い合せたところ、原告清三が被告保険会社本社において健康審査を受ける旨回答したので、同月二六日ころ、本件各変額保険契約書を交付した他、「ご契約のしおり」と題する小冊子(乙第一号証)を平成元年九月二八日に、原告清三宛に郵送したこと、

(一〇) 原告清三は、平成元年一〇月一三日、原告東子は同月一八日、靖子は同月二五日、被告保険会社本社において、それぞれ健康審査を受け、本件各変額保険契約の申込手続を完了したこと、原告清三は他方、同月一六日、被告銀行大伝馬町支店において、原告清三名義の預金口座を開設し、このころ、麻田が原告清三に対し、本件各変額保険契約に基づく保険料の支払資金として、被告銀行が長期総合ローンで貸付を行うこと、同貸付に伴う利息は自己資金から支払っても、長期総合ローンで当面の利息分も含めて、貸し付け、その後の利息はマイカードビッグで借り入れることもできること、長期総合ローン及びマイカードビッグの仕組み、手続、利息が変動制であること等を説明したこと、これに対して、原告清三から被告銀行から利息支払資金まで借り入れたいとの申出があり、同年一一月二七日に、本件各貸金契約締結の申込をしたこと、

(一一) 被告保険会社は、前記の健康審査の結果を受けて、同年一一月二七日までに、原告らに稲垣が計画した内容の変額保険に対する加入を認められない旨を回答したが、稲垣の被告保険会社との交渉により、原告清三については再検査を受けることにより基本保険金額を予定していた金一億五〇〇〇万円から金二億円に増額した内容の本件変額保険契約一に対する加入が、原告東子については、基本保険金額を予定していた金一億円を金五〇〇〇万円に減額した内容の本件変額保険契約二に対する加入がそれぞれ承認され、原告清三が同年一二月一二日、再度の健康検査を受けたこと、原告らは平成三年一月一四日付で本件各変額保険契約の締結を申し込んだこと、そして、稲垣は本件各変額保険契約の内容に関して甲第四号証の資料を作成して、原告に交付したこと、

(一二) 原告清三は、被告らから本件各契約に関する勧誘を受け、本件各契約を締結するまでの間において、稲垣若しくは麻田に対して変額保険の仕組み若しくは内容が理解できない等と言っていないこと、本件各契約の内容については、稲垣及び麻田において提案し、原告らの了解を得て決定されたこと、右の間、原告清三から稲垣若しくは麻田に対して、パンフレット若しくはシミュレーション等の資料が交付されていない、十分でない等のクレームはなかったこと、

(一三) 平成四年二月ないし三月ころ、原告清三が稲垣に対して、被告保険会社から原告らに対して送付している本件各変額保険契約の解約返戻金額の記載のある「応答日通知」の見方について質問したので、稲垣がこれに対して回答したこと、原告清三は稲垣に対して、当時の株価の低迷に伴う変額保険の運用実績の悪化について懸念を表明したが、稲垣は相続税対策としての効果まで失われていない旨回答したこと、原告清三は稲垣に対し、特別勘定の運用実績が悪いため、契約内容及び運用利回りの将来性を懸念しており、借入金利が予想以上に高くなった時期があって、その結果、借入元利合計金が当初予想よりも高額になっていることを表明したこと、これに対して、稲垣は、確かに予想しなかった状態にあるが、相続税対策効果まではマイナスとなっていないので、しばらく様子をみてはどうかと意見を述べたこと、原告清三は稲垣に対し、借入元利金合計が予想よりも早い時期に当時の本件不動産の担保評価額一杯になる危険性があり、借入後の急激な金利上昇があったため借入元利合計金が当時としての予定以上の金額に増額していることに対処すべきかと質問したが、稲垣自身明確な回答ができなかったこと、その後、同年四月一七日、同年五月一一日、同月二一日、同年六月四日、今後の特別勘定の運用見通し、解決策が協議されたが、具体的な解決策は合意されなかったこと、

(一四) 原告清三は、昭和二〇年九月、福知山経済専門学校を卒業後、昭和三二年に上京し、昭和三四年四月に、産業能率短期大学を卒業、同大学においては、会社事務を勉強する事務学科に在籍したこと、その後経営コンサルタント、販売促進、広告宣伝等の関係の事業を営んでいた養父の仕事を手伝った後、昭和四八年、ミクロ経理に入社し、昭和五三年まで同社に勤務し、同年、帳票、印刷物の印刷・販売、事務機器の製造・販売等を目的とする株式会社ミクロビジネスフォームを設立し、その後、同社の商号を東京ビーエムシステム株式会社と変更したこと、この間、原告清三は一時、同社の代表取締役を務めたこと、右の際、原告清三が同社を代表して株式会社三和銀行から借入を行い、借入金の担保として担保権を設定したことがあること、以上のとおり認められ、右認定を左右するに足りる証拠は存在しない。

2(一)(1) これに対し、原告らは、前記原告らの主張のとおり主張し、甲第五号証の一、二、第六号証、第七号証、第八号証の一、二、第九号証の一、二、第一〇号証、第一一号証の一ないし六、第一二号証の一ないし三、第一三号証、第一四号証の一ないしこ四、第一五号証ないし第一七号証、第一八号証の一ないし五、第一九号証ないし第二九号証、第三〇号証の一ないし三、第三一号証の一、二、第三二号証、第三五号証ないし第三七号証、第三八号証の一ないし四、第三九号証、第四〇号証の一、二、第四一号証、第四六号証の一、第四六号証の二の1ないし6、第四七号証、第四九、第五〇号証の一、二、第五一号証の一ないし六、第五二号証、証人稲垣勉、同麻田俊弘、原告水田清三本人尋問の結果を援用する。

(2) 確かに、甲第二九号証及び原告水田清三本人尋問の結果には、稲垣並びに溝上及び麻田が原告に対して、本件各契約の締結を勧誘した際、本件各変額保険契約に基づく運用利回りが最低年九パーセントと保証されており、これを下回ることはありえず、それゆえ、確実に本件各変額保険契約に基づく死亡保険金若しくは解約返戻金の金額が常に本件各貸金契約に基づく貸金債務元利金額を上回って増大していくため、右の死亡保険金若しくは解約返戻金によって、右貸金債務元利金を完済でき、その上、相続税納税原資をも取得することができると説明し、原告もこの旨誤信したとの供述ないし記載がある。そして、右掲記の各証拠によれば、溝上が高橋に対して、本件各契約による本件相続税対策を、原告清三において何らの出捐を伴わない相続税節税対策であると説明・勧誘したことが、本件各契約締結の発端であったこと、稲垣が原告清三に対し、変額保険の運用対象が株式若しくは公社債であり運用対象の大部分は安全なものであって、変額保険の特別勘定の運用利回りは最低でも年九パーセントであり、年一二、三パーセントや年一五、六パーセントのこともありえ、運用利回りが増減しながら、全体としては最低年九パーセントで運用されていく、この運用を反映して解約返戻金若しくは変動保険金も増減しながら全体としては増加していくと説明したこと、原告清三自身本件各貸金契約に基づく貸金債務の弁済を行う必要があったことは認識していたが、本件各変額保険契約に基づき原告清三が受領する死亡保険金若しくは解約返戻金によって弁済でき、右貸金債務の弁済のために原告清三が自己資金を準備する必要性があるとまで認識していなかったこと、この点に関して、稲垣が原告清三に対し、原告らが一円も手持ちの資金を用いずにできる相続税対策であると説明したこと、稲垣が原告清三に対し、乙第一号証の「ご契約のしおり 定款・約款」と題する小冊子、甲第三号証のパンフレットが実際的な資料ではなく、相続税対策に役に立たないので見てもしようがない旨述べたので、原告清三は右資料を受領後も読まなかったこと、原告清三が稲垣に対し、同号証の運用実績例表に運用利回りが年4.5パーセント、年〇パーセントの場合の保険金若しくは解約返戻金の金額の推移が記載されていたので、このように低額になることもあるのか質問したところ、稲垣がこれは規則で記載する必要があるので記載しているだけで実際にはこのように低利回りにはならない旨述べたこと、稲垣が原告に対して甲第四〇号証の一、二のような本件各貸金契約に基づく貸金債務と本件各変額保険契約に基づく死亡保険金若しくは解約返戻金の金額の推移を比較対照して、後者が最低年九パーセントの利回りで前者を上回る状態で増額推移することを図示したグラフを交付したこと、稲垣が甲第二号証の説明の際に、契約締結後四年目から解約返戻金が貸金債務の元利金合計を上回ることになると説明したこと、被告らの従業員が原告清三に対し、変額保険の特別勘定の運用実績が悪化した場合、若しくは、原告清三が予想以上に長生きして、借入元利金合計が膨張して、原告ら若しくは靖子が保険金若しくは解約返戻金によって、借入金全額を返済できず、この返済のために本件土地・建物を処分することが必要になる可能性があるとは説明しなかったこと、稲垣自身、特別勘定の運用利回りが年4.5パーセント、年〇パーセント若しくはマイナスとなった場合の解約返戻金若しくは変動保険金の状況、あるいはこの場合の借入元利金合計との関係についてまで、原告らに対して説明する必要性を感じていなかったこと、一時払養老保険の企業契約について大蔵省から二度の販売停止の規制を受けたことがあり、本件各契約の締結の際にも大蔵省の右規制のことは稲垣も念頭に置いていたが、本件各契約締結に当たって特に慎重を期すべきものとまでは考えなかったこと、麻田は原告清三に対して本件各変額保険契約及び本件相続税対策の有するリスクについて何ら説明していないこと、稲垣が被告銀行大伝馬支店の支店長等に要請して、右支店内において、変額保険及び変額保険に銀行からの融資を結合させた相続税対策に関する説明会を開催したこと、稲垣が右支店行員に対して、右説明会において、変額保険と融資契約を結合させた相続税対策に関して説明を行い、右支店行員に対して、相続税対策を求めている不動産を所有する資産家の顧客を紹介するように要請したこと、大蔵省が、銀行が生命保険契約の募集行為を行うことが募取法違反であると認識していたこと、変額保険の運用実績及び銀行ローンの金利がそのときどきの経済環境によって変動する性質のものであることから、銀行への要返済額と死亡保険金若しくは解約返戻金の金額の大小を一義的に見通すことはできない性格のものであるとして、利用者に対して十分かつ適切な説明、契約者に対して適切な情報の開示に努めるように行政指導していたこと、そして、変額保険の勧誘に当たっては、断定的判断の提供、変額保険金若しくは解約返戻金の最低保証、恣意的に過去の特定期間の運用実績を根拠として将来の予測を行うことの禁止を生命保険会社に対する通達により指導していたこと等の各事実を認めることができる。

(3) しかし、前記1(一)ないし(一四)認定の本件各契約締結に至る経緯、本件各契約締結後の事情によれば、原告清三自身、本件土地・建物の価格が増大する傾向にあると認識しており、それゆえに原告清三についての相続発生時の相続税評価が増額されることを危惧していたこと、同様の事情で本件土地・建物の担保評価額自体が増額していくものと予想していたこと、原告清三自身も、かかる経済状況、不動産市況を前提として、本件各契約による本件相続税対策を考えていたこと、原告清三が前記認定の会社を設立し、右会社の代表取締役まで努めた経験を有すること、稲垣が原告清三に対し、前掲甲第三号証、乙第二号証、第四号証等を用いて、変額保険が特別勘定の運用次第によって、配当、死亡保険金若しくは解約返戻金が増減する性質のものであること、ただ、死亡保険金として最低金二億円の支払が保証されていることを説明したが、変額保険が商品の構造上、年九パーセントの利回りを最低保証した商品であるとは説明していないこと、原告清三自身も、右の変額保険の性質、死亡保険金に最低保証がある旨の説明は受けたが、変額保険金若しくは解約返戻金についてはそのような説明を受けていないことを認めていること、原告清三自身も、本件相続税対策による原告清三の相続発生時の相続税に関するシミュレーションが変額保険の特別勘定の運用利回りが年九パーセント、借入金利が年六パーセントという前提の下でのものであることを認識していたこと、本件各貸金契約に基づく利率は契約締結当初年6.5パーセントであったが、原告清三が本件各貸金契約締結当時、この点に特段の異議を唱えなかったこと、原告清三が本件根抵当権設定契約の目的を本件貸金債務の返済を担保するためのものであることを認識していたことを認めることができ、これらの事情を総合すれば、稲垣が原告清三に対し、変額保険の運用利回りが最低年九パーセントは大丈夫である旨述べたのは、変額保険若しくは解約返戻金の利回りが前記認定の過去の実績、当時の経済状況から推して、最低でも年九パーセントの利回りが期待できるとの趣旨であったに過ぎないこと、原告清三自身も、稲垣が作成したシミュレーションに記載された運用利回り及び相続税節税効果が見通しであることを認識していたこと、原告らは、本件各契約締結後、本件各変額保険契約の運用実績が悪化したことを知った後も、本訴を提起するまで、稲垣若しくは被告らに対して、本件各契約の内容が稲垣の説明と違うとか、説明を受けたことがないという苦情を申し立てたりしておらず、本訴提起前には、稲垣に対して本件各変額保険契約に基づく運用実績が低きに過ぎることに対する苦情、その後の運用利回りについての見通し及び本件各契約により原告らが負担すべき債務の処理方法を質問しただけであったこと、稲垣が原告清三に対し、前記1(二)(3)認定のとおり、甲第三号証に基づいて変額保険の内容を説明した後に、相続税対策の資料としては貸金債務元利金の動向を掲載していないので有用性が低いことから甲第三号証の参照の必要がないと述べたに過ぎないこと、甲第三号証には前記1(二)(3)認定の変額保険のリスクに関する記載があることを認めることができ、前記2(一)(2)認定の供述ないし記載はいずれも容易く採用できない。

(二)(1) ところで、取引の性質として本来的に投資上のリスクを備えている金融取引の当事者となろうとする者は、原則として、当該金融取引に伴って生じるリスクについて自己の負担において処理すべき責任を負担すると解される。ただ、右のような金融取引契約に関して、一方の当事者が、相手方当事者から契約目的の開示を受けた上で特定の契約を右目的に資するものとして、その契約の締結を勧誘し、当該契約を締結するに至った場合であって、当該契約による契約目的の達成が当該契約の性質上不確実な場合には、当該契約の締結を勧誘する当事者において、相手方当事者に右不確実性を認識させて、契約目的達成の可能性に関して合理的な判断をなしうるように配慮すべき義務を負担しているものと解される。

したがって、被告らのごとき金融取引について知識・経験の豊富な金融機関が、商品の性質上大きいリスクが包蔵されている金融商品取引についての知識及び経験に乏しく、そのため右金融商品取引を行う上でのリスクに対する判断能力に乏しい一般消費者的地位にある者が相続税対策に悩んでいる場合に、変額保険契約及び保険料支払目的の貸金契約の締結が相続税節税対策効果を有するとして、右各契約の締結を勧誘する場合には、右各契約締結に伴う投資上のリスクに関する情報、すなわち、当該変額保険契約の内容、変額保険による運用実績には変動があり、実際の変額保険の運用利回りが貸金債務の利率を上回る場合には問題がないが、変額保険の運用利回りが貸金債務の利率を下回ることがありえ、その場合には、相続税対策として有効性を失うという変額保険の運用上のリスク及び相続税節税対策としての限界性について開示して、右の勧誘を受ける者において、投資上のリスクを考慮した上で相続税節税効果を実現しうるかにつき自己責任に基づく経済的に合理的な判断をなしうるよう説明すべき義務を負担するものと解すべきである。

そして、前記認定の、稲垣が、原告清三に対し、本件各契約及び本件相続税対策の内容として、変額保険の特別勘定の運用が不確定なものであり、右運用実績に応じて死亡保険金若しくは解約返戻金が変動することを説明しており、原告清三も右説明のとおり理解していたのであって、その上で、稲垣が原告清三に対し、本件各変額保険契約の特別勘定の運用が年九パーセント以上の利回りが確保できると見通しを述べたこと、この見通しを原告が信用したこと、本件各契約勧誘当時である平成元年一二月ころまでの運用実績が前記認定のとおり、多くの加入月において十数パーセントの運用利回りを確保していたこと、原告らが被告らに対して本件各契約締結前に本件各契約の説明がよく理解できないとか、説明が十分でないとか、もっと説明してほしいとか述べたことがないこと等の各事情に照らせば、稲垣が原告清三に対して、本件各変額保険契約の運用上のリスク、それに伴う本件各契約による本件相続税対策がその期待される効果を挙げない可能性について説明し、稲垣及び原告清三において、本件各変額保険契約の運用上のリスク及び本件相続税対策のリスクを認識しながら、右運用の見通しにおいて結果的に誤ったに過ぎず、右2(一)(2)認定の事情、とりわけ、生命保険契約の募集に関しては法規制が存在し、特に変額保険の募集に関して指導が行われていたこと、また、稲垣が原告清三に対し、変額保険の特別勘定の運用実績次第では、保険金若しくは解約返戻金が貸金債務元利金を下回って、相続財産を処分しなければ、本件各貸金債務の返済ができなくなる旨を明示的に説明しなかったこと、更に、稲垣が原告清三に対し、運用利回りが年四〇パーセントを超えたこともあり、大体年一二パーセント程度であることから、年九パーセントの運用利回りが期待できるとの説明をしたこと、パンフレットの一部を参照の必要がない旨を述べたこと等を併せ考慮しても、直ちに、稲垣が原告清三を欺罔したとか、一定の利益を保証したとか、断定的判断を提供したとか、恣意的に特定の期間の実績を挙げて将来の利回りを予測した等とまでは認められず、被告保険会社ないし稲垣の勧誘行為に原告ら主張の説明義務違反若しくは重要事実の不告知等の募取法違反等があるとは認められない。

(2) また、被告銀行及び被告保証会社並びに溝上及び麻田の一連の行為も、右認定による変額保険販売資格を有する稲垣の各説明等をも併せて考慮すれば、原告ら主張の説明義務違反若しくは無資格者による勧誘、重要な事実の不告知等の募取法違反があるとまでは認められない。

二  争点2について

前記一認定の事実ないし事情によれば、稲垣、麻田、溝上らが原告らに対して、真実は、本件各契約を内容とする本件相続税対策には本件各変額保険契約に基づく運用実績に変動が予想され、運用実績次第では、本件各契約により、相続税節税効果を挙げられるとまでの保証はないのに、本件各変額保険契約に運用上のリスクがなく、運用利回りが最低年九パーセント保証され、相続税節税効果を挙げうるものと欺罔したと認めるには足りない。

三  争点3について

前記一認定の事実ないし事情によれば、原告清三において、本件各変額保険契約に運用上のリスクが全くなく、したがって、本件各契約が本件相続税対策として期待した効果を挙げないことはありえないと誤信していたとまでは認めることができない。

第四  結論

以上の次第で、原告の本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官星野雅紀 裁判官金子順一 裁判官吉井隆平)

別紙物件目録<省略>

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